#人事インタビュー

世界遺産のおひざもとで見つけた、夢の未来への入口。

株式会社テムザック(福岡県宗像市)

2021. 08. 18 Wed

潜入、山の中の秘密基地

マンガやアニメで見ていたロボットは、いつも、働いていた。人間を助け、人間を守りながら。大人になり、身の周りでロボットらしきものは見かけるようになったけれど、あの頃憧れていたロボットたちとは「違う」と感じてしまう。あれはしょせん、夢物語だったんだ――そうあきらめ、割り切っている大人がほとんどだと思う。
ところが、あきらめていない技術者たちがいるという。しかも、この九州に。

社屋を見て、また唖然とした。かなり年季が入っている。
それもそのはず。出迎えてくれた総務部長の松尾潤二さんによると、市町村合併により使われなくなった玄海町の町役場の建物をリユースしているという。なるほど、社内を案内してもらうと、ロビーやカウンターなど、役場時代の名残りがあちこちに。
しかし今そこにいるのは、過去に手がけたロボットたちと、製作途中のロボット、そして作業着姿の社員たちだ。

その会社名は、株式会社テムザックという。従業員は30名にも満たない小さな会社だ。それでいて資本金は、約5億円。だが特定の大企業の傘下にあるわけではない。さまざまな業界の企業や団体から資本金が集まっているのだと松尾部長は明かす。「それくらい、この会社は期待されてきたんです」

姿を見せ始めた「ワークロイド」

会社の設立は2000年。ルーツは、創業者・髙本陽一氏 の家業、北九州市にあった建設機械のディーラーにさかのぼる。
陽一氏が後を継いだ時に、メーカーを志し、食品製造ラインの企画・製造を始めた。やがて、遊び心でロボットを作ったことが転機になった。会社の受付をロボットにしたところ、各種メディアに取り上げられ、一躍注目の的に。当時、新たな産業の創造に意欲を見せていた福岡県知事から直々に、「ロボット専門の会社を作ったらどうか?」と提案されて、立ち上げたのが、テムザックだった。

その後の歩みは異質だった。松尾部長はこう説明する。

「現在、ロボットと聞いてイメージされるのは、工場で働く産業用ロボットか、店頭やアミューズメント施設で見かけるコミュニケーションロボットでしょう。でも、うちがめざす製品はどちらにも入りません。一般の生活空間のなかで働くロボットなんです」

そんなプライドと、差別化の意味を込めて、テムザックでは自社製品を「ワークロイド」と呼んできた。

すでに実用化されている代表作が、歯科患者シミュレーター「デンタロイド」である。歯科学生の実習用に開発された157センチの全身モデルで、音声認識機能を搭載。医師の指示に従って口を開け、顔を向ける動作や、不意な首振り、せき込み、閉口疲労など、患者の動きをリアルに再現する。
さらに最近開発されたのが、子ども型のシミュレーター「Pedia_Roid (ペディアロイド)」。子どもの歯科治療中の事故が後を絶たないなか、その防止対策として期待が集まっている。

介護現場からの要望で開発されたのは、被介助者用のモビリティ「ロデム」
ベッドやいすから簡単に乗り込めるため、介助者の手を借りず、自分の力で自由に移動できる。

さらに、さまざまなサイズを揃える「援竜」シリーズは、災害復旧用に開発された。人が立ち入れない場所での復旧作業や救出作業を担う。ロボットが双腕のアームで瓦礫を持ち上げ、人を救出する。そんなアニメで見た世界が、すぐそこまで来ている。

九州で面白い仕事がしたかった

一方、会社の台所事情は、まだまだ発展途上。
「正直、まだまだ財務状況は厳しいです。新しい産業ですし、開発にはものすごいお金がかかるので。今期やっと黒字化する予定です」
そう松尾部長は教えてくれた。

そんな松尾部長も実は、転職組なのだそうだ。ご経歴を聞いて、驚いた。大手広告代理店の営業畑で長く活躍。55歳でここに来る前は、海外法人の社長を任されていたという。そんな松尾さんがテムザックに転職した理由はなんだったのか。

ロデムの初期試作品にまたがる松尾さん。

「海外から故郷である北九州市に戻った後、知人からテムザックを紹介されたんです。残りの人生は、地元である九州で面白い仕事がしたいと思っていたので、お手伝いを始めました。苦労は多かったけれど、ポテンシャルを持っている会社で働くのは面白かったですよ」

まだ誰も、答えを見いだせていない世界で

そして今、時代がテムザックに追いついてきたのを感じているという。

「5年前ほどから、本格的な開発依頼が一気に増えてきました。介護、医療、災害など、ニーズがはっきりしてきたんですね。と同時に、社内のノウハウも蓄積されて、応えられるようになってきた。技術とマーケットがかみあうようになってきたんですよ」

ここでは詳しく明かせないものの、さまざまな業種の企業との共同開発も複数進んでいるそうだ。いずれも、人手不足という深刻な課題を解決するためのもの。また、中東を始め、海外からのオファーも増え続けているという。
もっと大きなロボットメーカーもあるなかで、なぜテムザックにオファーが集まっているのか?という質問をぶつけると、松尾部長はこう教えてくれた。

「設計の思想が違うからです。産業用ロボットは固定されていますよね。しかも広くて安定した環境で使うのが前提。でもワークロイドは、不整地で、光も不安定な環境で仕事をしないといけません。サイズだって、その環境によって制限されます。ですからこの分野の製品は、大手もまだ答えを出せていないんですよ」

一方、テムザックは「ワークロイド」の理念をいち早く掲げ、各地の大学と連携しながら、共同研究を続けてきた。この分野では明らかに、「一日の長」があるのだ。

にもかかわらず、会社の成長がスムーズに進まない理由の1つには、人材不足という課題もある。増え続けるオファーに、対応しきれないのだ。
逆にいえば、技術者させ揃えば、爆発的な成長を遂げる可能性もあるということ。

「これまでは苦労してきましたが、それは当たり前なんです。今までになかったもの、新しい産業自体を作ろうとしてきたのだから。その苦労が今やっと、花開こうとしています。そういう意味では、今から入る人はチャンスだと思うんですよ」

誰よりもテムザックのポテンシャルにひかれ、その成長を見守ってきた松尾部長は、力強くそう語ってくれた。