#現場のリアルを知る

「ロボットを仕事に」。その情熱が、彼を福岡へと向かわせた。

株式会社テムザック(福岡県宗像市)

2021. 07. 05 Mon

答えてくれた人

株式会社テムザック 技術本部開発部
和泉翔大さん(28)
滋賀県出身 立命館大学理工学部ロボティクス学科卒
自動車メーカーを経て現職。

―以前はどんなお仕事をされていましたか?

自動車メーカーで、内装部品の設計や、先行開発を担当していました。

―最初にその仕事を選んだ理由は?

大学ではロボット工学を専攻していたので、最初は産業用ロボットのメーカーを検討していたんです。
でも、単腕のアームで部品を運ぶ…といった産業用は、自分が思い描いていた「ロボット」とは違っていました。大学では動物や架空生物の動きを再現するロボット「アニマトロニクス」を研究していましたので。だったら、大学で身につけたCADの技術を活かせる、設計の仕事に就こうと考えたんです。

―なぜ転職を考えるようになったのですか?

実際に働いてみると、設計以外の仕事が多かったからです。仕事の4割は、取引先に提出するためのExcelやPowerPointでの資料作りでした。
しかもキャリアが長くなるほど、そちらの割合が増えていくと知り、それならここに長くいるよりも、自分の好きな仕事に挑戦したいと考えるようになりました。

―転職活動はどのように進めましたか?

大手の転職サイトや、ロボット専門の転職サイトにも登録しました。
ただ、紹介された会社の中には、「ロボットを作ったことがありますよ」という話だったのに、実際は1回しか作ったことがなかったり、実態がないケースも多くて、なかなかちゃんとロボットを作っている会社と巡り合うことはできませんでした。 場所を問わず、全国のいろんなところで探した結果、この会社だけでしたね、自分のイメージと合う会社は。
歯科患者シミュレーターを見たときに、ここなら自分の知識が活かせそうだ!と思ったんです。

―それで、縁もゆかりもない福岡への転職を決意したのですね。現在テムザックではどんなお仕事をされていますか?

主にシミュレーターの開発に取り組んでいます。僕の担当は、機械設計。設計図を書き、部品を加工業者に発注して、部品が届いたら組み立てるところまで、幅広く携わっています。
その他、電気設計、制御設計の担当者とチームを組んで開発を進めています。

―印象に残っているお仕事を教えてください。

子ども型の歯科患者シミュレーター「Pedia_Roid (ペディアロイド)」の開発ですね。大学から「本当の子どもに近いものを!」という要望がありましたので、とことんリアルを追求しました。
注射をするときに怖がって暴れる動きを再現したり、顔色が変わる、呼吸が異常になる、痙攣する、といった全身反応の再現にも挑戦しました。

―ペディアロイド開発にあたってはどんなご苦労がありましたか?

普通、人形の眼には「ドールアイ」という義眼を使いますが、それだと、瞳孔の拡大や縮小が再現できません。悩んだすえに、液晶で目を作ることを思いつき、そのアイデアが採用されました。皮膚はシリコン素材を使いましたが、曲げたときのシワの入り方にもこだわりました。
また体や腕の中がスカスカだと、抑えたときに違和感があります。そこで、内部の回路をよけつつ中身を充填するという難題にも向き合いました。まずは片腕だけを作り、大学の先生に見せて、要望が出たらまた修正する、という試行錯誤を何度も重ねましたから、完成した時はうれしかったです。

―なるほど、細やかなところまで再現性を追求されているのですね。
すこし話題を変えますが、職場はどんな雰囲気ですか?

基本的に、ひと回りくらい年上の方が多いですね。福岡の研究所で僕より年下の技術者は1人だけかな。京都の研究所はもう少し若いようですが。ただそのぶん、すごい経験を持っている先輩がたくさんいます。わからないことが出てきても、質問したらなんでもスラスラ答えてもらえるので助かっています。

―1日の仕事の流れはどんな感じでしょうか?

朝は8時50分に出社して、まずはみんなで職場の掃除をします。その後は、メールを確認し、CADやエクセルを開いて、設計作業を開始。たまに社外へ出張にも行きます。製品が使われる現場を見たり、ユーザーの要望や課題を直接聞くことも大事な仕事なので。子ども型歯科患者シミュレーターを開発した時も、実際の臨床現場を見学させてもらいました。
終業の定時は18時です。残業はあまりしませんね。また裁量労働制なので、出社・退社の時間はけっこう個人差があります。

―職場の周辺はずいぶんのどかですね。とても最先端のロボットを作っているとは思えない環境ですが、はじめて職場を訪れたときはどう思われましたか?

ははは、たしかに(笑)。田舎ですよね。でも僕も滋賀の田舎で育ちましたので、すぐに慣れました。
僕は、やりたい仕事ができるのであれば、場所にこだわりはありませんでしたね。全国どこででも!という気持ちでした。

―やりたい仕事があれば、場所は問わなかった、ということですね。今はどちらにお住まいですか?

東郷という最寄り駅の近くにアパートを借りて暮らしています。通勤時間は、自転車で30分くらい。ここはバス停もけっこう離れているんで、自転車で通勤しているんです。他の人はほとんど車通勤ですね。
不便は感じたことはありません。博多駅にも近いですしね。JRを使えば乗り換えなしで30分ほどで着きますから。

―休日の過ごし方は?

寝て過ごすことも多いですが(笑)、たまにロボットも設計しています。会社で作れないようなロボットをね。机にのるような四脚のロボットとかを、プラモデル感覚で作ったりしています。
他のみんなもやってるんじゃないでしょうか。ロボット好き、メカ好きが多いので。

―そういえば、この部屋の棚にもロボットが飾ってありますね(笑)。皆さんがロボット好きというのもうなづける気がします。
そんな和泉さんにとって、この会社の魅力は?

ロボットの機械設計ができる会社って、日本全国を探しても、ほとんどないんです。この仕事ができるというだけでも、僕にとってはすごい魅力。しかもこの業界で、ハードよりの人材がこれだけ集まっている会社は本当に少ないと思います。
かといって大企業でもありませんから、自分が担当する範囲が広いし、確実にスキルが身に着くのを感じます。

―とはいえ、前職は大企業。転職することに迷いはありませんでしたか?

迷いはありませんでした。たしかに前の会社は給料も高かったです。でも、いちばん大事なのは、お金じゃない。人生の時間は限られています。自分がやりたいことに時間を割いたほうがいいと思ったし、ここに転職してよかったと心から思っています。

―ロボットづくりに懸けてきた和泉さんならではの言葉ですね。ありがとうございます。
これからのキャリアで、成し遂げたい夢はありますか?

日常生活の中で実際に働いて、人々のために実際に役立つロボットを作ること。それが今の僕の夢です。

―ありがとうございました!
日本中探してもなかなかレアな「人のために役立つロボット」に関わる仕事。和泉さんの覚悟とやりがいをひしひしと感じました。